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法定相続人の中に、自分で判断することができない人(成人)がいるにもかかわらず、遺産分割を行った場合、その分割は無効になります。このように、自分で判断することができない人(意思能力のない人)のための制度として、成年後見制度があります。成年後見制度には、「法定後見」と「任意後見」があります。
法定後見も任意後見も後見制度の趣旨としては、本人の財産や権利を保護・支援するという部分では同じですが、この2つの制度には大きく異なる部分があります。
意外に、法定後見と任意後見の違いを知らない人が多いので以下でその違いを説明します。
◆後見制度の始め方
法定後見:本人の判断能力が低下後に申立人が家庭裁判所に申立てることで後見開始
任意後見:本人の判断能力が低下する前に後見契約を結び判断能力低下後に後見開始
法定後見の場合、すでに本人の判断能力が衰えていることに対し、本人の権利保護、財産保護のために申立人が家庭裁判所に申立てをおこない後見が開始されます。任意後見の場合は、本人の判断能力がまだしっかりしている時点で後見契約を結ぶことで、実際に判断能力が衰えたときに後見を開始するといった違いがあります。後見が開始される時点においては、どちらも当然に本人の判断能力の衰えがあるのですが、【後見制度の始め方】という考え方において、法定後見では「判断能力が衰えてから」、任意後見では「判断能力が衰える前の後見契約から」といった部分に違いがあります。
◆本人の意思反映
法定後見の場合、本人の判断能力が低下していることを不安に感じた親族が申立てをおこない後見が開始されるというケースがほとんどだと思われます。
本人を保護する後見人には、ほとんどの代理権、同意権が与えられます。判断能力が低下してくると、本人が自分自身で物事を判断することが困難になってくるからです。そういった意味では、法定後見の場合には、本人の意思反映は難しくなってきます。(判断能力の程度によります。)
任意後見の場合では、判断能力が低下する前に契約で具体的な保護・支援の内容を決定するため、本人の意思反映は比較的かなえられると思います。
◆後見人の権限
法定後見の後見人には、代理権や同意権などが与えられますが一定の制限はあります。
後見人は本人(被後見人)の利益になることしかおこなうことはできません。一見、本人の利益になりそうに思えても、判断能力が低下してしまった今、本人がそれを望むのかは誰にも分かりません。
しかし、任意後見の場合、本人の意思反映のところでも説明したとおり、まだ判断能力がしっかりしているときに、誰を後見人にするのか?どのような代理権を与えるのか?どのように財産管理をしていくのか?など自由に決定することができますので、後見人の権限を自由に決めることができると言ってよいでしょう。ただし、任意後見人の代理権は、契約で決めた代理権しかない点は注意が必要です。
財産の管理などを自分の意思通りにおこないたい場合には、今後訪れるかもしれない判断能力の衰えに備えて、任意後見の制度を活用するのもひとつの方法でしょう。
現在の高齢化社会の日本において、今後ますます後見制度の利用は増えていくものと思われます。
任意後見監督人とは、任意後見人の監督をする人です。
具体的には、任意後見人の事務を監督すること、任意後見人の事務に関して家庭裁判所に定期的に報告すること、急迫の事情がある場合には任意後見人の代理権の範囲内において必要な処分をすること、任意後見人又はその代表する者と本人との利益が相反する行為について本人を代表することなどが上げられます。他にも、任意後見人に対し、いつでも事務の報告を求め、又は任意後見人の事務若しくは本人の財産の状況を調査することが可能です。
この任意後見監督人ですが、任意後見契約をいざ発動するときには必ずつけなければなりません。任意後見契約を結んだ後すぐに選任されるわけではなくて、本人の判断能力が不十分になり、実際に任意後見契約が開始されるときに申立てをおこない選任されることになります。ここは法定後見制度とは違うところです。
《任意後見契約法第4条》
「任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する。」
任意後見監督人には、申立てにより家庭裁判所が本人にとってもっとも適任であると判断した人を選任します。任意後見監督人は個人でも法人でもなることができます。
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